新宿署の女性巡査のあれ


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このポエムは実際に起こった事件、報道を元に創作した作り話でフィクションであり、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

恋に落ちた婦警

彼に出会ったのは夏だった。窓のない狭い取り調べ室で机越しに向き合う二人。いるはずのない蝉の鳴き声が聴こえてくるような、静寂と蒸し暑さが充満した部屋の中だった。

彼の野生的なその目は、T子のの23年間の人生の中で経験したことのない目だった。厳格な両親のもとで育ったT子。しかし、箱入り娘というわけでもなく、活発な学生時代をすごし、T子自体も両親を尊敬していた。T子が父親と同じ警察官の道を目指したのも自然の流れだったのであろう。

そう、恋に落ちたのも警察官の道を目指した時と同じように、自然の流れだったのかもしれない。

彼は32歳の独身組員だった。誰もが振り返るような端正な容姿に、肉食獣を思わせる危険な目は、誰しもが魅力的に感じるだろう。だが、男の魅力はこれだけではなかった。取り調べ中、時折、はにかみながら冗談を言うその姿は、少年のような仕草で、彼の外見からは想像もできない魅力となっていた。これも彼の女性を惹きつける能力だったのだろう。

T子は彼のあの少年のような仕草が忘れられず、遂に彼に電話してしまう。どんなに公務に集中しても、必ず彼のことを考えていた。

「お久しぶりね。あの時の調書のことだけど、」

嘘の理由を作ってまでした他愛のない会話だった。しかし、T子の内なる感情を彼が把握するのに時間はかからなかった。

季節は変わり、T子のもとへ彼からの電話が届いた。飛び跳ねるほど嬉しかった。会話は冷静を装っているが、もう抑えられなかった。遂には食事の約束までしてしまう。はじめてのデートは六本木で食事をした後、湘南の海までドライブした。海で見せた彼のはにかんだ笑顔はT子のすべてを包み込んだ。

女を知り尽くした男と男女の関係になるには時間は必要なかった。

男女の関係になったといえど、T子に不安がなかったわけではない。そう、警察官と組員という肩書きだった。利用されているのではないか。また、この関係が世間に明るみになるとすべてが終わってしまう。

T子はギリギリのラインで、彼との時間が1秒でも長く続くように懸命に貢献した。男を信じ時には捜査情報を教示し、金銭の貸与も行った。わかりながらも破滅の道を進んでいった。

別れは突然だった。T子の貯金もつきた頃、T子自身、気持ちが冷めていくことになった。あれだけ、夢中になった愛がなにかつまらないものに感じはじめた。

このまま、時の流れが過ぎていくT子の多くはない恋愛経験の1つとしてすぎていくかのように思われたが、破滅はささいなきっかけから起こった。

もう幼少の頃憧れた父の背中を追うことが叶わなくなった。

明るみになった後、二人は湘南の海で再開した。

「すべてバレたね。私もあなたももう終わったわ。」

「逃げるんだ。組からも。警察からも。」

「逃げるってどこに?行き場所なんてどこにもないわ。」

「どこでもいい。そして、海が見える港町で一緒に隠れてくらそう。」

「冗談でしょ。でも嬉しいわ。」

風で飛ばされた新聞紙が舞っている。記事の端にはその後の二人の未来がかかれていた。

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