15歳の夏の夜だった。
当時、僕と仲良くしてくれていた異性の学友がいて、毎晩のように飽きもせず、その学友と長電話していた。
自宅の電話だと電話代金がかさみ叱られるので、父親が誰かから粗品で頂いたような放置してあったテレフォンカードを持ち出して、公衆電話まで電話をかけに行ったこともしょっちゅうあった。
その公衆電話までの道のりは15歳の時の僕にとってはすごく楽しみな道のりだった。
今、思えばその学友は毎日毎日、ほんとに迷惑だったと思うし、それでもいつも僕のくだらない話しにつきあってくれて、心の優しい女の子だったんだなと思う。
僕の実家は、地上波キー局が当時2局しかなく、在京局のドラマなんかは遅れて放送されるのが常だった。
当時、僕はタモリが案内役をやっていたif 〜もしも というドラマを毎週楽しみに観ていた。
確か僕の地元では土曜の深夜に放送されていたと思う。
毎週1話完結型のほぼ、世にも奇妙な物語なんだけど、登場人物が取った選択肢によって世界線が変わるというパラレルワールドを題材にしたドラマだった。
そういったパターンを軸にしたシナリオは当時の僕の年齢も合わさって、厨二心を揺さぶり、最良の選択肢とは?なんて意味不明なことを当時は考えていた(笑)。
そして最終回を迎えた夏の土曜の夜、ドラマ放送前に僕は変わらず冒頭の学友とお喋りしていた。
今でも覚えているんだけど、
「今日でifが最終回だね。楽しみだから絶対見ようね」
なんてことを話していた。
そして、電話を切ったあと、僕は20年以上経過してもある意味僕の生き方に影響を与えたドラマを見ることになる。
衝撃を受けた教室での臨場感
夏の花火大会、僕の故郷は地方でも結構大きな花火大会が催されていて、大勢の人が集まる。
その年に一度のイベント当日はどこかみんな浮ついて、いつもの街並みが違った風景に見えることもあるし、もっと言えば花火大会独特の町の匂いみたいなものがあった。
夏の中でも特別な1日だった。
当時の仲間達と、どこで誰と花火を見るかなんて話しもしてたかと思う。
そしてテレビからは、まるで僕が仲間達とそこにいるかのような教室の情景が映し出されていた。
それは、主人公達が放課後の教室で花火を見る角度について議論をするシーンなんだけど、敢えて手ブレした映像と目まぐるしくパーンする映像はまさしく僕がそこにいる視線の先だった。
この瞬間から僕は主人公達の友人の一人になっていたのだった。
もちろん僕は仲間達と花火を見る角度についてなんか語り合ったことはないのだけど、テレビ越しの世界の中では、すでに既成事実として語り合ったことになっていた。
ちなみにこの手法はキューブリックや原田眞人なんかも好きなんじゃないのかな。個人的な印象だけど。
特別なあの匂いのする夏の1日を見事に描いた映像だった。
大人がいない場所に行くことを夢見た
映像は終わりまで夏らしく、夏のけだるい暑さを醸し出しながら、それでいて特有の儚さというか綺麗さというか、言葉にするととても陳腐なものをこれでもかというほど表現していた。
この作品の主人公のように僕も当時の異性の学友とどこか遠くへ行きたいと思っていたんだと思う。
それは所謂、厨二病というもので特に何か含蓄があるような話しではない。
そういった当時の僕の夢を描いてくれていたし、僕もこんなシナリオや映像を作ってみたいと思った。
大人がいない世界を自分で考えれば良いという安易な発想だ 笑
僕はいつしかシナリオライターという職に興味を抱いていた。
今見ても、恥ずかしげもなく中学生のような夢想を映像化しているにも関わらず、何の青臭さも感じさせないところは本当に素晴らしい作品だと思う。
ドラマを見終わった僕は、また学友と感想を語り合ったはずなんだけど、その記憶は全くない 笑
そして、僕とその学友は中学校を卒業する前には自然と関係性も疎遠になっていった。
数年後に再び思い出した話し
僕は高校を卒業後、大阪で住んでいた。
残念ながら「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は当時テレビで1度見たきりで、そういったドラマがあったことさえも記憶の中から消えていた。
それは当時は当時でたった3年の高校生活でも人間関係に悩み、そして濃密な期間を過ごしたからだと思う。
大阪できた初めての友人に岩井俊二の映画を勧められた。確かその1年前に映画「スワロウテイル」が公開されていて話題の映画監督だったし、浅野忠信の「FRIED DRAGON FISH」なんかを勧めらたはずだ。
その流れで、「岩井俊二の花火の映画知ってる?」と尋ねられたのだと思う。
その質問で僕は4年前、自宅で見たあのドラマのことを思いだした。
それは僕の記憶のパズルピースがはまった瞬間だった。
こういったドラマを作りたかったんだよな。なんて感慨にふけっていたりもした。
幸いにもその友人がBSで放送されたそのドラマを録画していて、貸してもらった僕は気が狂ったようにその映像を堪能した 笑
結局、僕はシナリオライターの芽は出なかったんだけど、夏が来ると思い出す映画の一つだ。
僕は、あの時から僕の中の時間は止まったんじゃないのかな。なんて思うことが時々ある。
僕はいつも過去を思い出す。
もしも、あの時、何か行動できたら?人に対する思いやりがあったら?何か今と違った人生を歩めてたかもしれない。
それだけ未来の僕の情けなさを決定づけた作品だった。
アニメについて
そして24年の時を経て、今度はアニメとなって再び観覧することになった。
夏の炎天下、エアコンが効いた真っ暗闇の映画館で見たアニメは空の青さが眩しかった。
当時アニメを見た時には、何か狙ったようなエモさの演出が好みに合わなかったのだが、今見返すとそれはそれで良いものなんではないかな。と思い始めてきた。
何より音楽がいいよね。
アニメ版はamazon prime videoで視聴可能なので、みんなも是非この夏に観てほしい。